中国病院長研修(日中病院長専業化-現代病院管理制度研究討論会)を開催しました
2018/11/28
医療協力事業の一環として、中国より著名病院の院長・副院長ら13名を迎え、中国国家衛生計画生育委員会・能力建設継続教育センターとの協働により、11月19日~11月23日の5日間に亘って「日中現代病院管理制度研究討論会」を開催しました。
本討論会のテーマ、①日中における衛生医療体制、②日中の病院長の専業化体制、③日本の病院機能評価体制、④日本の医療の品質・安全管理体制、⑤日本の病院運営・管理体制と業績管理等について忌憚ない意見が交わされました。日中医学協会では、プログラムオフィサーを東京女子医科大学特任教授 上塚芳郎先生にお願いし、各テーマを深く議論できる日本人エキスパートを講師として選定して頂きました。
- 11月19日(研修一日日)
上塚先生、中国病院長訪日団の団長である王杉先生(北京大学人民医院)、劉文先先生(中国国家衛生健康委員会規規劃司副司長)の開会ご挨拶を頂きました。
上塚芳郎先生ご挨拶 王杉先生ご挨拶 劉文先先生ご挨拶
プログラムが始まり、安藤高夫先生(衆議院議員、日本医療経営学会理事)、紀伊國献三先生(笹川記念保健協力財団最高顧問)、上塚芳郎先生から順次ご講演頂きました。講演の内容は、それぞれ日本の社会保障政策(超高齢化社会を迎えて)、日本の病院管理の黎明期(戦前・戦後)、日本の国家財政と社会保障の現状に関するものでした。次に、中国側からは宋冰先生(中国国家衛生計画生育委員会・能力建設継続教育センター副主任)から中国病院長の教育研修や病院管理上の課題と共に2017年度に制定したガイドラインの実践状況について発表されました。病院長の資格・登用要件、研修制度に関する日中間の違いについて活発な質疑応答がなされました。
安藤高夫先生ご講演 紀伊國献三先生ご講演
上塚先生ご講演での質疑 宋冰先生ご講演
- 11月20日(研修二日目)
聖路加国際病院院長の福井次矢先生は、医療の質の改善への試み(院内QIプロジェクト、QI: Quality Indicator)とその全国展開について講演されました。続いて、日本病院会長の相澤孝夫先生(慈泉会相澤病院理事長)から、病院経営における院長のリーダーシップ(ビジョン策定、ビジョン達成のための組織マネジメント)の重要性についてお話されました。医療の質の測定や病院長の強い権限について中国側出席者から多くの質問がありました。次に劉文先先生が、健康中国2030計画における主要目標の一つであるビックデータの医療分野への応用とAIについてご講演されました。日本側から中国における電子カルテの普及度合、フォーマット統一化、入力方法等に関する質問がありました。分析に足り得る良い結果を得るには、カルテデータの入力初期段階における質の向上が大切であり、このことは日中共通の課題のようでした。
福井次矢先生のご講演 福井先生と座長の朴浩哲先生
相澤孝夫先生ご講演 相澤先生と座長の胡三元先生
- 11月21日(研修三日目)
日本医療機能評価機構の神保勝也副部長より、日本における医療の質向上と安全な医療の提供に向けての取り組みについて講演されました。日本医療機能評価機構は日本独自のシステムで、全病院の26%が認定(社会保険系病院では70%)されているとのこと。これに対し中国では独自の第三者認定機関はなく米国の国際医療機能評価機関(JCI)の認定を受けているが、10%に満たないだろうとの中国側からコメントがありました(日本でもJCI認定病院は20数施設あり、聖路加国際病院もその中の一つ)。
神保勝也先生ご講演 神保先生(左)と座長の李立栄先生
午後から静岡県立静岡がんセンターを訪問しました。静岡がんセンターでは、安達勇先生(緩和医療科参与、日中医学協会副会長)から日本の癌の疫学ならびに静岡がんセンターの理念と現状についてレクチャーを受けました。また、西村哲夫副院長より静岡がんセンターが日本医療機能評価機構による認定を受けていること、医療安全に関して最大限の努力をもって医療事故発生の抑止に努めていることを強調されました。中国側からは、中国では緩和医療が進んでいないことから日本の良質なケア体制に対して、また訴訟ゼロを達成した医療安全対策の実際の取り組みなど、多くの質問がありました。この後、センター内を見学し、患者本位の医療看護体制(ホスピス、診療受付けなど)、先端医療機器(陽子線治療装置)を視察しました。
静岡がんセンターの皆さんと写真 静岡がんセンターの施設内見学
- 11月22日(研修四日目)
午前中、順天堂医院を訪問しました。天野篤院長のご挨拶に続き、内藤俊夫総合診療科科長から順天堂の沿革や大学の特色、地震対策が完備した最新の病棟、アジアを中心とした国際交流の現状などについて幅広く説明頂きました。中国側から日本の「総合診療科」は中国でいう「全科」と同じではないこと、院長による医療安全の確認が負担にならないのは何故か、などの質問がありました。その後、二班に分かれて順天堂医院の施設見学を行いました。救急プライマリーセンター、特別病棟、リハビリテーション室を視察しましたが、中国医師の皆さんは説明の先生方に多くの質問を浴びせていました。院内施設見学終了後、順天堂大学の新井一学長から終わりのご挨拶を頂きました。
天野篤院長ご挨拶 宮下先生、内藤先生 新井一学長ご挨拶
午後は、倉敷中央病院の相田俊夫代表理事より、急性期基幹病院の経営とその中長期計画についてご講演を頂きました。中国側からは、地域医療機関との関係強化のためのどうやって情報収集をされているかその方法について、病院経営面では利潤の確保の仕方、人材(すぐれた能力をもつ医師)の確保、などに質問がなされました。
相田俊夫先生ご講演 相田先生と座長の任軍先生
四日目の最後に、プログラムオフィサーの上塚先生が座長を務められ、ラップアップが行われました。まず、上塚先生から、日本における病院長研修システムについてその成り立ちも含めて詳しく説明され、中国側の疑問が解消されたようでした。今回の討論会を踏まえ、4つの提案がなされました。1)非常に良い検討会であったので継続することが望ましく、次期テーマは医療安全が良い、2)日本の病院に関するデータについて事前に勉強して理解度を固めて会合に臨むべきである、3)もう少し余裕のあるスケジュールを組むこと、4)本研討会終了後も中国側に問合せたい事項があれば対応しますとのことであった。中国側からは、上塚先生に対して大変よい講師を選択頂き、レベルの高い討論ができたことに、感謝が述べられました。安達勇副会長からは、今回の検討会は有意義であったこと、中国側に求めることは、日本の何が参考になるのか、日本側に前もって知らせてもらえるとより充実した会合になるだろうとのコメントがありました。
(最終日)
安達勇日中医学協会副会長より日中医学協会の概要および今後の交流について講演され、5日間の討論会スケジュールがすべて終了しました。中国側の皆さんは本当にタフで、日本側講師に対して座長が遮るまで立て続けに質問をされていました。病院管理という一見難しく、面白みの少ないテーマかと思いましたが、まったく心配することはありませんでした。中国側団長の王杉先生から、病院管理に関する日中プラットフォームの設立等々の提言がありました。中国側で本研修の企画実行に尽力された能力建設継続教育センター(宋冰副主任)との協働関係の進展が期待されます。
最終日討論会