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機関誌『日中医学』

特集:日中笹川医学奨学金制度35周年記念式典

【特別講演】恒常性医学~健康維持と疾病治療への新たなアプローチ~

中国科学院院士、南方科技大学医学院院長
王 松霊

 恒常性(ホメオスタシス)とは、自己調節機能が動的に一定を維持しようとするプロセスであり、生体システムは、このプロセスを通じて安定した状態を保ちながら、絶えず変化する外部環境に適応し、正常な生命活動を維持している。恒常性医学は、ヒトの分子、細胞、器官及び全身の恒常性バランスを研究する学問であり、恒常性バランスの維持を立脚点として、健康を維持し、疾病の予防と診断・治療を行う総合的な学問である。恒常性医学は、全身全体に注目し、健康時及び疾病時における恒常性の役割に焦点を当て、健康の維持や疾病治療に新たなアイデアやアプローチを提供することが期待されている。
 硝酸塩は、天然の栄養素として日常的に摂取する水や食物中に広く含まれ、生物の生存に不可欠な物質である。外因性硝酸塩は、上部消化管で速やかに血流に吸収され、そのうちの約25%が唾液腺に取り込まれ、唾液中に集積する。病理的条件下では、外因性硝酸塩は、硝酸塩-亜硝酸塩-一酸化窒素(NO)経路を介し、内因性NO経路の補完として、消化器系を保護するために消化管血流を増加させ腸内細菌叢を調整したり、肥満を軽減するために脂肪代謝に影響を与えたり、がん治療を補助するためにシスプラチン化学療法の感受性を高めるなど、身体の恒常性維持に重要な役割を果たしている。一方、Sialinは、哺乳類の細胞膜における硝酸塩輸送チャネルとして、細胞質内にも存在し、硝酸塩が生理的機能を果たしNOの恒常性を維持するための重要なタンパク質である。血中の硝酸塩濃度の上昇は、通常、重要な器官におけるSialinの発現上昇を伴い、その結果、一連の細胞生物学的機能を引き起こす。硝酸塩とSialinの間のポジティブフィードバックループは、硝酸塩によるNOの恒常性の調節を助長し、身体の恒常性を改善する。硝酸塩-亜硝酸塩-NO及びSialinを介する細胞生物学的機能は、恒常性維持のための重要なシステムであり、良好な臨床応用の可能性をもつ。
 我々は、AIスクリーニング法により既存薬データベースから硝酸塩とビタミンC(VC)の最適な配合薬を見出し、経口摂取可能な硝酸塩-VCナノ製剤「耐瑞特(Nanonitrator)」を開発した。これは、硝酸塩の吸
収とバイオアベイラビリティを改善し、口腔及び全身疾患に対して優れた予防・治療効果を発揮する。
 本講演では、硝酸塩の輸送チャネル発見の過程、研究の現状、開発中の新薬「耐瑞特」の広範な応用の可能性についてまとめ、硝酸塩の生体の恒常性維持及び疾病の予防治療への応用に新たなアプローチを提供する。

【特別講演】日本における循環器病の課題と未来

国際医療福祉大学副学長、
東京大学大学院医学系研究科先端循環器医科学特任教授
小室一成

 日本は2007年に65歳以上が人口の21%以上となり超高齢社会となった。その結果、疾病構造も大きく変化し、加齢とともに増加する疾患である脳卒中や心不全、心房細動などの循環器病の患者が急増した。日本では40年以上にわたってがんが死因のトップであるが、65歳以上の高齢者では循環器病の死亡者数はがんの死亡者数とほぼ同じである。また日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳と現在も伸びており男女とも世界トップクラスであるが、医学的に制限なく自立した生活ができる健康寿命と平均寿命との間には男性で9 年、女性で12年の乖離があり、その原因の1位は循環器病である。循環器病の中には多くの種類の疾患があるが、近年日本で最も大きな問題となっているのは心不全である。我が国における心不全患者数は現在約120万人であり、総人口が減少する中で少なくとも2035年までは増え続けると推定されている。心臓病別の死因でも2000年以降急性心筋梗塞を抜いて心不全がトップである。心不全の治療に関しては、生命予後を改善する多くの心不全薬があるばかりでなく、非薬物療法としてカテーテル治療やデバイス治療も大きな進歩を遂げているが、生存率が全がんの平均よりもはるかに悪いのは、すべてが対症療法であり病態に基づいた原因治療ではないからである。
 以上のように大きな問題を抱える循環器病に対して、国は2018年脳卒中・循環器病対策基本法を成立させ、2020年循環器病対策推進基本計画を策定した。基本計画では基本法の3つの基本理念に沿って3つの大目標が掲げられている。一つが「循環器病の予防や正しい知識の普及・啓発」である。日本の国民は誰でもがんについてはよく知っているが循環器病について正しく理解している人は少ない。一方で循環器病は予防が大変有効であるので国民が循環器病について理解し予防法を知る意義は大きい。
 基本計画の2つ目の目標は「保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実」である。そこには健診の普及や推進、救急搬送体制の整備、医療提供体制の構築、患者支援、リハビリテーション、相談支援、緩和ケア、治療と仕事の両立支援・就労支援、小児期・若年期からの循環器病への対策などが掲げられている。特に心不全では退院後の指導・管理が重要であるため、多職種による患者のケア、管理が必要である。
 目標の3つ目は「循環器病の研究推進」である。前述したように循環器病治療の多くは対症療法にとどまっており病態に基づいた治療が行われていない。がんのように病態に基づいた分子標的治療を可能とするには、まずは循環器病の発症機序を明らかにする必要がある。ゲノムやオミックスの解析をすることによって疾患発症の分子機序を明らかにし、動物やオルガノイドなど疾患モデル研究を行い、新しい治療法の開発につなげることが重要である。
 高齢化に伴う種々の課題を抱える日本において、一方で医療は益々高度化、複雑化、先進化、多様化するなど多くの困難が待ち受けている。しかし循環器の領域では今までも常に新しい診断法や治療法を開発するなど多くのイノベーションを起こしてきた。今後はウェラブルデバイスや非接触型デバイスを用いて膨大な臨床情報を負担なく取得し、AIなど等を利用することにより診断、予防、治療がより迅速、適切に行われることが期待される。また種々のロボットやアバターによって医療関係者の負担軽減も可能となろう。今回の新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンの開発に代表されるように、人は昔から様々な困難に出会うたびに、イノベーションを起こすことによって困難を乗り越えてきた。今後も世界中が協力することによって待ち受ける困難をも乗り越えていくことであろう。

歓迎挨拶 曹 雪涛 中国国家衛生健康委員会副主任
挨  拶 森 喜朗 元日本国内閣総理大臣
笹川陽平 日本財団会長
講 演

”日中笹川医学奨学金制度の新たな展開
 ~第六次制度の意義と日中医学交流の未来“
小川秀興 日中医学協会会長

”日中笹川医学奨学金制度研究者の帰国後の活動紹介“
趙  群 笹川医学奨学金進修生同学会理事長

『日中笹川医学協力プロジェクト第六次協定書』調印 日中笹川医学協力プロジェクト第六次協定書
『日中笹川医学奨学金制度』沿革
あとがき 緒方 剛 広報委員会委員長
日中笹川医学奨学金制度第46期研究者募集のお知らせ
機関誌『日中医学』投稿原稿募集の
お知らせ